この本を含め、およそこの世で刊行されている本には誤植がつきものです。もちろ ん、どの出版社も校正を重ねて誤植の追放に努力しているわけですが、なかなか完壁 な、誤植ゼロの本は作れないというのが実情です。 こうした誤植の中で史上最大の誤植と言えるのが、一六三一年にロンドンで発行さ れた『聖書』の中の誤植です。この聖窒易Lは有名なモーゼの十戒の「なんじ、姦淫す るなかれ」という一節から「not」が落ちてしまい、「なんじ、姦淫せよ」となって いたのです。もちろん、この誤植が見つかった段階で同書は回収、焼却処分にされ、 責任者は罰金刑に処せられたのですが、後年発見された、回収を免れた本は『姦淫聖 書』と呼ばれ、コレクターの間では珍重されています。 日本ではここまで「凄い」例は出現していませんが、それでも著者名の誤植などは ままあります。そうしたなかで一部で話題になったのが、以前刊行されていた某文庫 の件。この文庫は翻訳物が主体だったのですが、そのなかに『蛾』という恐怖小説が ありました。問題の誤植があったのは、この本の本文や表紙まわりではなく、巻末に 掲載された既刊本の広告。高名な評論家のKS氏が訳出した短編集の欄に、「KS訳」 と印刷すべきところを「KS誤訳」と印刷されていたのです。